地デジのテレビアンテナで受信できる方向は指向性で決まる? アプリでアンテナの方向調整に最適な角度を調べる方法も徹底解説!
地デジ用テレビアンテナの設置時、地デジ電波を受信できる向きや、アンテナ本体の「指向性」を確認し、人の手で角度を調整する方法、また電波の方向を調べることができるコンパスアプリなどについて紹介します。
かつての地上波放送であったアナログテレビ放送から、現在の地デジ放送(地上デジタル放送)へと完全に転換されてから、2023年(令和5年)で12年、すでに干支が一周したことになります。
いまや地デジ放送は一般のご世帯にも完全に定着し、地デジ放送を視聴できないお住まいはほぼ皆無と言っていいでしょう。
今日では地デジアンテナにも「八木式アンテナ」「デザインアンテナ」「ユニコーンアンテナ」などの機種があり、取り付け現場の電波状態や設置位置などが整っていれば、アンテナ工事業者に依頼せず、ご自分での地デジアンテナ設置も不可能ではございません。
ただ地デジ放送を適切に受信するには、地デジアンテナ設置の際に、現場の電波レベルに適したアンテナ機種や適切な取り付け場所の選択。そしてアンテナ取り付けの際、地デジ電波の方向に向けたアンテナの角度調整を行う必要がございます。
これは、地デジ電波は主に発信元である電波塔の方向から届くものであり、地デジアンテナ側にも、特定の方向のみで受信性能が高まる「指向性」があるためです。
したがって、どれだけ高性能な地デジアンテナでも、地デジ電波の方向や、アンテナ本体の受信性能が高くなる角度を確認して、的確に設置しないと、十分な地デジ受信はできなくなってしまいます。
当コラムでは、地デジアンテナ取り付け時、的確なアンテナの角度(方向)調整に重要となる、地デジアンテナ機種ごとの指向性と、必要な地デジ電波の基礎知識。またスマートフォンアプリなどを利用して、現場に届く地デジ電波の方向を確認する方法などを、2023年度の最新情報に基づいてご説明してまいります。
【地デジや衛星放送のテレビアンテナを適切に受信できる方向へと向ける基本事項】
現在の地デジ、衛星放送とも、デジタル化した映像信号を、空間を光の速さで伝わる電波の波長に変換して発信し、その電波を対応するアンテナで受信。チューナーによって電波信号を映像に変換することで、テレビ放送を視聴できる仕組みになります。
そのため地デジ、BS/CSアンテナとも、電波を的確に受信できるようにアンテナを設置する方法は、ごくシンプルなものです。
すなわち「地デジや衛星放送の電波を送信する電波塔、人工衛星の方向を正確に把握する」「その電波が現場に届く方向に、各種アンテナが最大の受信性能を発揮する正面を向けて設置する」の2点のみです。
ただ、言葉で表すとまことに簡単ながら、それを実践するためには、それぞれの放送の仕組みや電波の性質。また地デジ、衛星放送用の各アンテナ機種について、その受信性能と、特に「指向性」について把握しておく必要がございます。
ここでは地デジ放送の仕組みや、送信される電波の方向。また地デジアンテナの受信性能がもっとも高まる方向や、アンテナを的確な向きに角度調整する方法などをご説明していきます。
【地デジ放送の基礎知識と地デジ電波の性質について】
地上デジタル放送、いわゆる地デジとは、かつての日本における中心的なテレビ放送であった地上アナログ放送に代わって、2003年(平成15年)12月1日に放送を開始し、2011年(平成23年)7月24日にアナログ放送が終了(停波)したことによって、日本の地上波放送となったテレビ放送です。
かつてのアナログ放送では、テレビ放送の映像信号を、そのまま電波の波長に変換して送信していました。使用される電波も、日本国内のほぼ全域で放送されるNHK、広域民放では「VHF(超短波)」が、一部の都府県で個々に存在し、その都府県内を放送エリアとする独立放送局の地方チャンネルでは「UHF(極超短波)」の電波が使われていました。
しかし現在の地デジ放送では、映像信号をいったん「0」と「1」のデジタル信号に変換し、情報量を圧縮して送信することで、使用する電波をUHF帯(300MHz(メガヘルツ)から3,000MHz(3GHz(ギガヘルツ))のうち、470MHzから710MHzの周波数帯のみと、大幅な削減を実現しています。一方、デジタル化により大量の情報量を送信可能になったため、テレビ映像のフルハイビジョン(2K、FHD)化をはじめ、データ放送、双方向性など、アナログ放送にはなかったさまざまな新機能をも実現しています。
この地デジ放送の電波を送信しているのは、2012年(平成24年)に完成した、東京都墨田区に立つ東京スカイツリーをはじめとする日本各地の送信所、その他、数多く立つ大小の中継局などの電波塔になります。
これらの電波塔から周辺エリアに電波を送信することで、現在では日本国内でも大半の地域で、各種の地デジアンテナを設置すれば基本的に無料(NHK受信料を除く)で、地デジ放送を視聴できるようになっております。
そもそも電波とは、光を含む「電磁波(電場と磁場の変化により、空間を光の速さで伝搬する波(波動))」のうち比較的、周波数(波動や振動などが単位時間あたりに繰り返される回数)が低いものを指します。また周波数の高い電波は、短時間に波長が繰り返されるため、波長の幅は短くなります。現在の地デジに用いられる周波数帯のUHF波では、波長の長さは40センチから60センチ程度です。
日本の電波法では、300万MHz(3㎔(テラヘルツ))以下の電磁波を「電波」と定義しており、それ以上の周波数になると、まず赤外線、可視光線、紫外線の順で光となります。さらに高周波数ではX線、ガンマ線といった放射線となります。
したがって電波も高周波数帯になるほど性質が光に近くなり、直進性が強まる反面、障害物などにぶつかった際にはその多くが反射し、障害物の向こう側へと回り込む力が弱くなります。現在の地デジに用いられるUHF波の周波数帯は、アナログ時代のVHFに比べると周波数が高いため、障害物に突き当たると、電波が遮断される性質が強くなっております。
また電波は発信された地点から距離が遠くなるほど弱まるため、電波塔からの距離や障害物の影響により、日本国内でも地域によって受信できる地デジ電波レベルの強弱が変化してまいります。
この受信できるおおよその地デジ電波のレベルにより、日本国内を区分けしたものが、強・中・弱の「電界地域」と呼ばれるものです。
電界地域は学術、法律などの正式な定義ではないため、場合によっては基準に違いが出ることもございますが、基本的には、電波強度を示す「㏈(デシベル)」の単位によって、そのエリアで受信できる電波の強度により、
「強電界地域:80㏈以上」
「中電界地域:80㏈から60㏈」
「弱電界地域:60㏈以下」
の基準で分類されます。ただ国内でも電波塔から遠い過疎地域や離島部、電波が遮断される山間部や高原地帯など、一帯の地デジ電波レベルが非常に弱く、受信が難しくなる、地デジの「難視聴地域」も存在します。
またこれらの電界地域は、あくまで大まかな目安にすぎず、各電界地域内でも、現場によって基準内での電波レベルの差が生じることはもちろん、高層建築物など大きな障害物の近隣ではその影響を受け、例えば強電界地域でも受信できる電波レベルが80㏈を下回るなど、局地的には電波状態が悪くなることもございます。
その他、地デジ電波レベルはエリアに関係なく、気候などの影響を受けて年間で「6㏈」前後の変動が生じます。また電波は周波数が高くなるほど雨や霧などの水分に影響されやすくなるため、悪天候の際にも電波レベルが低くなる性質もあります。
そのため戸建て住宅などに地デジアンテナを設置する際には、地デジ電波の性質を踏まえて、まず現場の電界地域や受信できる具体的な電波レベル、また電波塔から現場に届く電波の方向を把握する必要がございます。
その上で、現場の電界地域に適した受信性能を持つ地デジアンテナ機種を選択する。周辺の高層建築物や地形、住宅の密集度などを判断して、周辺の障害物などに影響されにくいアンテナの設置位置を選ぶ。そしてアンテナの正面側を、電波が届く方向へと正確に向ける必要などが生じてまいります。
他にも、地面から高度が上昇するにつれて、一定の間隔で波のように地デジ電波レベルの強弱が変化する「ハイトパターン」。各電波塔から送信される地デジ電波の種類である「水平偏波」「垂直偏波」の違いなども、地デジアンテナ機種や設置位置を決める上では重要な要素となってまいります。
これら地デジ電波や電界地域の基礎知識、その他の特性については、以下の各コラム記事にて詳細を解説しております。
地デジアンテナ設置に重要となる「強電界地域」「中電界地域」「弱電界地域」とは?
地デジアンテナを設置する高さの設定で重要となるハイトパターンとは? 地デジ電波を受信するために適切なアンテナの高さとは?
【地デジアンテナの「指向性」とは?】
ここからは、地デジアンテナを設置する際に重要となる、テレビアンテナの特性や性能の話になります。まず基本的な事項として、戸建て住宅などに設置される地デジ、BS/CSのテレビアンテナには、どれも「指向性」が存在します。
「指向性(directivity)」とは電波や音、光などが空間に出力される際に、そのエネルギーの強度が方向によって異なる性質のことであり、またはそれらを空間中から検出するときにも使われます。
テレビアンテナはテレビ電波を受信するためのアンテナですが、広い意味でのアンテナは、電気エネルギーを電波(電磁波)に変換して空間中に放射(送信)、受信する装置のことを指します。
そして「指向性アンテナ」とはアンテナ本体でも特定の方向のみで電波を送信する、または受信する性能が高くなるアンテナのことをいいます。テレビアンテナでは、アンテナ本体を設置する際、ある特定の方向(アンテナの正面)側でのみ、受信性能が高まる性質をそう呼びます。
逆にこの指向性がないアンテナを「無指向性アンテナ」といい、主に水平方向の全方向に等しく電波を送信する、または全方向的に等しい受信性能で電波を受信できるアンテナになります。具体例としては、小型のラジオやワンセグ受信機などについている、延長式の棒状であるロッドアンテナや、無線LAN、Wi-Fiなどの受信アンテナなどです。
ただ厳密にいえば、どのようなアンテナであっても、アンテナ本体の形状によって一定の指向性は生じます。例えばロッドアンテナであれば、ロッドを立てた水平方向については360度同じ受信性能を発揮しますが、垂直方向の受信性能は低くなります。
なお真の意味で360度の全方向に指向性がないアンテナは、宙に浮いた完全な球形であり、形状が存在しない点状のアンテナとなります。このようなアンテナでは、電波の送信強度(または受信性能)は、アンテナの全方向で同一レベルとなり、アンテナ本体を覆う形で完全な球形を描くことになります。もちろんこのようなアンテナは現実には存在しませんが、実在する指向性アンテナと受信性能(指向性)を比較するための、理論上の完全無指向性アンテナとして「アイソトロピックアンテナ」と呼ばれています。
アイソトロピックアンテナと同じ受信(送信)性能を持つ指向性アンテナは、球形をしたアイソトロピックアンテナの受信性能が、体積は同じまま一方向のみに大きく突出し、その分だけ、その他の方向では大きさがしぼんだものと考えるとわかりやすいでしょう。
つまり指向性アンテナの特性は、指向性が高くなる、つまり受信性能を発揮できる角度が狭くなるほど、その方向での受信性能は高くなる点にあると言えます。
また指向性アンテナには、特定の方向で受信性能が向上することに加えて、それ以外の方向からの電波は受信しないという性質がございます。そのため電波塔や人工衛星など、特定方向から送信される電波を受信するためのアンテナで、余計な電波をカットすることでより受信性能が高まる、地デジやBS/CSのテレビアンテナには適しているといえます。
ただ指向性を持つテレビアンテナの場合は、設置する際に、その現場に地デジ、衛星方向の電波が届く方向を確認して、アンテナが受信性能を発揮する側(正面)を電波の方向へと正確に向ける角度調整の作業が必用となります。
また地デジアンテナにも、先端がドーム状になった無指向性アンテナが存在します。このようなモデルは設置角度の調整が必要ないため、ご自宅でも取り付けが簡単で、室内設置も可能なモデルが多くなります。ただこのようなアンテナの受信性能は、指向性をもつ地デジアンテナに比べると低くなり、基本的に強電界地域向けといえます。
【地デジアンテナの受信性能を示す「素子数」「動作利得」と「指向性」の関係】
地デジアンテナ本体の受信性能を示す主な基準は「素子数」と「動作利得(利得)」です。これらは地デジアンテナ製品のスペック表などにも明記されている数値であり、アンテナの受信性能を判断する、非常にわかりやすい基準となります。
そしてこれらの数値は、上記したアンテナの「指向性」にも大きく関係してまいります。以下、これらの点についてご説明いたします。
(地デジアンテナの「素子数(相当)」とは?)
地デジアンテナのパーツのうち、地デジ電波を受信する部分を「素子(エレメント)」と呼びます。
アナログ放送時代から使用されている、魚の骨に似た古典的なテレビアンテナ「八木式アンテナ」では、骨組みの横棒にあたる短い棒が「素子」にあたり、外部からその数を確認することもできます。地デジアンテナではこの素子の数が多くなるほど、電波の受信性能が高くなり、ノイズにも影響されにくくなります。
この素子数は、各地デジアンテナモデルにて「20素子」などの形で表記され、受信性能の基準となっています。また外観性を重視した近年の地デジアンテナ機種「デザインアンテナ」「ユニコーンアンテナ」は薄型のボックス状やポール状の形状で、外部から素子を見て取ることはできません。このような機種では受信性能を素子数に換算した「素子数相当」という表記で受信性能を示します。
ただ八木式アンテナのように素子が露出したアンテナは「素子アンテナ」と呼ばれ、そうでないデザインアンテナ、ユニコーンアンテナに比べると、同じ「20素子(相当)」のモデルでも、受信性能がやや高めになる性質がございます。
基本的に地デジアンテナは、各電界地域に適した素子数のモデルが使用されます。テレビなど受信機器に届く地デジ電波レベルが90㏈以上でも、地デジ放送の画面に乱れなどが生じることから、強電界地域では4素子や8素子のモデルが使用されることもございます。
また中電界地域では14素子から20素子。弱電界地域では20素子から26素子、また個々の素子が高い受信性能を持つ高性能モデル(パラスタックアンテナ)が使用されることがございます。
ただ20素子相当の地デジアンテナモデルであれば、電波を増幅するブースターや、適度に減衰させる(弱める)アッテネーターの設置で性能を調整することにより、地デジ電波レベルが極端に強い、弱いエリアを除く広範な地域で使用可能です。
なお地デジアンテナの素子数については、以下の各コラム記事でもポイントごとに詳細をご説明しております。
UHFテレビアンテナ設置の性能を決める「素子」とは? 地デジアンテナ取り付け工事で高性能になる素子数の選び方を徹底解説
地デジ用テレビアンテナ(UHFアンテナ)のモデルによる素子数の違いは? 高性能モデルは何素子数か?
地デジ用テレビアンテナ工事にて設置する電界地域に最適な受信性能は「何素子数」タイプか? アンテナ機器の選び方を徹底解説!
(地デジアンテナの「動作利得(利得)」とは?)
地デジアンテナの受信性能を示すもうひとつの指標が「動作利得(利得)」です。利得とは、電気工学では「電気回路における入力と出力の比」のことをいいます。そして地デジアンテナにおける動作利得は、アンテナで最大の受信性能を示す正面方向においての受信感度であり、アンテナで受信した地デジ電波に対して、アンテナから出力できる電波レベルの大きさを表します。
簡単に言えば、受信した地デジ電波に対する効率のよさとも言えます。「利得」は英語で「gain」になることから「ゲイン」と呼ばれることもあり、地デジアンテナなどでは、アンテナ動作時の利得であるため「動作利得」と呼ばれます。
地デジアンテナの動作利得は、「dB」の単位で示されますが、この数値は「基準になるアンテナ」と比較したものになります。すなわち動作利得が「0㏈」のアンテナは基準アンテナと同性能ということです。
この動作利得の基準となるアンテナには、前述した仮想上の完全な無指向性アンテナ「アイソトロピックアンテナ」と、実在するアンテナではもっともシンプルな構造となる「ダイポールアンテナ(ダブレットアンテナ)」がございます。
アイソトロピックアンテナと比較して割り出した地デジアンテナの利得は「絶対利得」と呼び、アンテナのスペック表などでは、アイソトロピック(isotropic)から「dBi」の単位で表します。
ダイポールアンテナとは、電線の先に二本の直線状の導線(エレメント)を対称形に設置したアンテナです。導線は素子と同じ役割であり、ラジオのロッドアンテナのような一本の銅線からなる「モノポールアンテナ」と並んで、もっともシンプルな形状のアンテナになります。
ダイポールアンテナの受信(送信)性能を形で表すと、棒状のアンテナ本体を中心の穴として、そのまわりに広がるドーナツ状となり、水平方向への指向性がないアンテナといえます。このダイポールアンテナを基準として比較した地デジアンテナの利得は「相対利得」と呼ばれ、ダイポール(dipole)から「dBd」または通常の「dB」の単位で表します。
いずれにせよ、この動作利得の㏈数が高い地デジアンテナほど、それぞれの基準になるアンテナ性能の形に比べると、他の方向への受信性能が低くなる分、特定方向への受信性能が突出していることになります。そして突出している分だけ、基準アンテナに比べて正面側を電波の方向へ向けた場合の受信性能が高く、さらに他方向からの余計な電波をカットできるといえます。
動作利得に関する注意点は、その数値(㏈)は、基準アンテナを元にした「常用対数」によって求められるという点になります。
そのため、例えば動作利得の数値が「1㏈」のアンテナと「2㏈」のアンテナでは、後者の性能が2倍ということにはなりません。簡単にご説明すると、動作利得が「3dB」の地デジアンテナは、正面側の受信性能が、基準となるアンテナの約2倍。「6dB」では約4倍。そして「20dB」であれば約100倍になります。ただ現場に設置された地デジアンテナが発揮する動作利得は、素子数やスペック上の数値だけでなく、現場の地デジ電波レベルによっても変動してまいります。
また実際の地デジアンテナの素子数と動作利得との関係としては、各素子数(相当)に応じたおおよその数値として、
・14素子以下:動作利得5㏈以下。
・14素子から20素子:動作利得5㏈から10㏈。
・20素子から30素子:動作利得7㏈から14㏈。
・30素子以上:動作利得10㏈から18㏈。
となってまいります。
この地デジアンテナの動作利得については、以下のコラムにも詳しい解説がございます、
地デジアンテナの性能を示す「利得(動作利得)とは? 素子数との違いなどの基礎知識を徹底解説!
(地デジアンテナの「動作利得」と「指向性」の関係を表す「半値幅」とは?)
ご自宅などに設置する地デジアンテナのモデルを選択する上での注意点としては、設置する現場で受信できる地デジ電波レベル(電界地域)に合わせた受信性能のモデルであることはもちろんですが、一方でただ受信性能が高い、つまり素子数が多い、動作利得が高いモデルであればよいというものでもないという点です。
ここまでにも少し触れてまいりましたが、地デジアンテナの動作利得と指向性は比例します。つまり受信性能が高い地デジアンテナモデルほど、アンテナの水平360度の方向のうち、地デジ電波の受信性能を発揮する角度が狭くなるのです。したがって高性能の地デジアンテナであるほど、設置時の角度調整が難しくなってまいります。
地デジアンテナ各モデルの指向性は、スペック表などの「半値幅」という数値で判断できます。半値幅とは、地デジアンテナの受信性能がもっとも高まる方向を基準に、そこから角度を左右にずらして、受信性能が最大値から半分に低下する角度を示すものです。つまり受信性能が高い地デジアンテナほど、この半値幅が狭くなり、ささいな角度のズレでも受信感度が低下しやすくなります。
そのため、取り付け後の安定した地デジ受信を実現できる地デジアンテナを選ぶ場合には、現場の電界地域に適した受信性能であることはもちろんですが、設置位置が風雨に影響されやすいかなども踏まえて、起こりうる角度のズレなどにも対処できるよう、指向性(半値幅)とのバランスを考慮する必要がございます。
【地デジアンテナの各機種における受信性能と指向性(半値幅)とは?】
現在の地デジアンテナは、地デジ電波がUHF帯の電波に統一されていることから「UHFアンテナ」とも呼ばれます。
アンテナ本体の特徴としては、アナログ放送時代に比べると、地デジ放送ではより波長の短いUHF波が利用されるようになったため、アンテナの小型化が可能となりました。そのため従来のテレビアンテナであった昔ながらの形状の「八木式アンテナ」もよりコンパクトになった他、デザイン性と対候性を高めた「デザインアンテナ」「ユニコーンアンテナ」といった機種も登場しております。
それぞれ受信性能や対候性、外観性などさまざまな特徴があり、アンテナの指向性もその形状や設計によって変わってまいります。
以下、それぞれのアンテナ機種の特性、および主な受信性能モデルの指向性(半値幅)について解説してまいります。
(八木式アンテナ)
すでに少しご説明しておりますが、八木式アンテナとは矢印型の骨組みに、短い横棒である素子が数多く設置された古典的なテレビアンテナです。素子が露出した素子アンテナで、モデルによって素子数の幅が広い上、主な設置位置が屋根の上になるため周辺の障害物などにも影響されにくく、現状の地デジアンテナでは、もっとも高い受信性能を誇る機種になります。
通常型の八木式アンテナでは、素子数では8素子、14素子、20素子などのモデルが存在します。
また古典的モデルであることから、アンテナ本体や設置工事費用がもっとも低価格になるというメリットもございます。
半面、独特の形状で屋根の上に設置されるため、住宅の見た目や景観に影響を与える。風雨などにも影響されやすく、老朽化の進行や角度のズレといったトラブルが生じやすいなどのデメリットもございます。
ちなみに国内有名メーカーの八木式アンテナを例にした、各素子モデルの動作利得、半値幅は以下の通りになります。
比較していただくと、素子数が多くなるほど動作利得も高くなり、半値幅が狭まることがお分かりいただけると存じます。
・8素子モデル:動作利得5.0から9.9㏈/半値幅42度から63度。
・14素子モデル:動作利得8.0㏈から12.5㏈/半値幅34度から57度。
・20素子モデル:動作利得8.5㏈から13.8㏈/半値幅28度から52度。
このように受信性能が高まるほど半値幅も狭まるため、素子数の多いモデルではやや緻密な角度調整が必要となってまいります。
ただ主な設置位置は屋根の上になるため、360度の角度調整は比較的、行いやすくなります。また強電界地域などでは素子数の少ないモデルを採用することで、半値幅に余裕を持たせることもできます。
八木式アンテナについての詳細は、以下のコラム記事でも解説しております。
地デジテレビアンテナの長老「八木式アンテナ(八木アンテナ)」とは?
(高性能型八木式アンテナ(パラスタックアンテナ))
八木式アンテナには、通常モデルとは別に高性能モデルも存在します。これは八木式アンテナの素子部分にⅩ字型の固定具を配置し、一か所に複数の素子を設置したモデルであり「パラスタックアンテナ」とも呼ばれます。
パラスタックアンテナでは個々の素子が通常モデルより高性能であることに加え、27素子や30素子などの多素子モデルも存在するため、通常モデルに比べると格段に受信性能が高まる一方、半値幅も狭まってまいります。
また5素子程度のモデルでも、受信性能では通常の八木式アンテナと大きな差がなくなるため、アンテナ本体を小型化したい場合にも素子数の少ないパラスタックアンテナが使用されることがございます。
パラスタックアンテナの特性はやはり高い受信性能で、例えば隣接する他府県の地方チャンネルなど、通常の地デジアンテナでは受信できないような、微弱な地デジ電波でも受信できるケースもございます。一方で高性能な分、指向性が高くなり半値幅が狭まるため、設置時の角度調整や風雨によるズレなどへの対策が重要となります。また価格もやや高くなります。
その他のデメリットも、基本の形状が同じ八木式アンテナと同様ですが、特に素子数の多いモデルは本体が大型になり、風雨などにも影響されやすくなるので注意が必要と言えます。
やはり国内有名メーカーのパラスタックアンテナ、各素子数モデルの動作利得、半値幅は以下の通りです。
・5素子モデル:動作利得7.2㏈から10.5㏈/半値幅35度から56度。
・14素子モデル:動作利得10.6㏈から13.5㏈/半値幅26度から43度。
・20素子モデル:動作利得11.3㏈から14.5㏈/半値幅18度から35度。
・27素子モデル:動作利得10.6㏈から16.4㏈/半値幅15度から40度。
・30素子モデル:動作利得13.2㏈から16.1㏈/半値幅18度から29度。
設置する位置や角度調整の条件などは通常の八木式アンテナと同じになりますが、やはり指向性が高いこと。特に高性能モデルは大型にあることから、設置時には綿密な角度調整と、角度のズレが生じにくい頑丈な固定が必要となります。
パラスタックアンテナについては、以下のコラム記事で詳しく解説しております。
(デザインアンテナ)
デザインアンテナは、2009年(平成21年)頃に普及しはじめた地デジアンテナの第二世代です。主に長方形の薄型で、住宅の壁面などに設置されることから、壁面アンテナ、平面アンテナ、フラットアンテナ、ボックスアンテナ、ケースアンテナなどの別名も存在します。
その名称通りカラーバリエーションも豊富でデザイン性が高く、主な設置位置も住宅の壁面やベランダのため、住宅の見た目や景観を乱さない。さらに風雨などの影響も受けにくく、耐用年数が長くなりトラブルなどが発生しにくいなどメリットが豊富です。
現在では強電界地域用ながら、屋内設置もできるコンパクトモデルも登場しており、地デジアンテナとしては一番人気の機種になっております。ただ受信性能に関しては主要モデルで20素子相当と、最大で26素子相当の二種類のみであり、基本的に強電界地域から中電界地域用の地デジアンテナになります。
また同素子数でも素子アンテナである八木式アンテナに比べると、受信性能はやや低くなります。さらに主な設置位置が壁面など住宅の低い位置になるため、周辺環境(障害物など)の影響を受けやすく、やはり受信感度が低くなる傾向がございます。
そのため受信性能の不足を補うために、ブースターを内蔵しているモデルも存在します。高層建築の付近や住宅密集地などの条件では設置できない場合もございます。
・20素子モデル:動作利得7.8㏈から9.8㏈(標準値)、7.5㏈から9.7㏈(規格値)/半値幅75度から86度。
・ブースター内蔵20素子モデル:動作利得25㏈から33㏈(総合)/半値幅75度から86度。
・26素子モデル:動作利得8.4㏈から10.2㏈(標準値・規格値)/半値幅71度から82度。
・ブースター内蔵26素子モデル:動作利得26㏈から34㏈(総合)/半値幅71度から82度。
デザインアンテナは主に壁面やベランダなどに設置されるため、住宅でもアンテナを設置する壁面などの側が、電波塔(地デジ電波が届く)方向であることが必須条件となります。ただアンテナ本体の半値幅はやや広く、また壁面などに設置した後、左右に扉を開くような形で角度調整もできるため、地デジ電波の方向へと的確に向けることはさほど難しくございません。
デザインアンテナおよび、後述するユニコーンアンテナについては、以下の各コラム記事でも詳しくご紹介しております、
地デジ用テレビアンテナ一番人気のデザインアンテナとは? 価格から工事費用、料金相場、失敗しない業者の選び方まで徹底解説!
台風対策に最適!地デジ「デザインアンテナ」と「ユニコーンアンテナ」とは?
この最小デザインアンテナがすごい!スカイウォーリーミニ(マスプロ電工)
(ユニコーンアンテナ)
ユニコーンアンテナは2017年(平成29年)、国内のテレビアンテナでトップシェアを誇る大手メーカー「マスプロ電工」さんが開発、発売した、ポールの先にほぼ円筒形のアンテナ本体を設置した、第三世代と呼べる最新鋭の地デジアンテナになります。
戸建て住宅での設置位置は、主に屋根の上や張り出し部(破風板)、また壁面の高所になります。
そのメリットは、スタイリッシュな形状から住宅のデザインや景観を乱さない上、風雨などを受け流しやすく、老朽化やトラブルの発生を抑えることができるなど、デザインアンテナと同様のものが挙げられます。
さらに設置位置が高くなるため、周辺の障害物などに影響されにくくなるという、八木式アンテナのメリットも備えています。そのため住宅密集地などでデザインアンテナが使用できない現場でも、ユニコーンアンテナでは設置できることが多くなります。
ただユニコーンアンテナ本体の受信性能は20素子相当であり、基本的に強電界地域から中電界地域用の機種になります。
また素子アンテナである八木式アンテナの20素子モデルや、より素子数が多いパラスタックアンテナほどの受信性能はないため、弱電界地域では使用できないケースが多くなります。また最新機種であることから、本体価格や設置費用が、地デジアンテナではもっとも高額になってまいります。
なお一見、円筒形に見えるユニコーンアンテナにも、指向性やアンテナの前後は存在します。円筒形の一面を切り落としたように平たい側がアンテナの裏面で、その反対側が受信性能の高い正面になります。その動作利得と半値幅は、
・動作利得5.5㏈から6.2㏈/半値幅83度から93度。
であり、半値幅が比較的、広いこと。さらに高所に設置できることもあって、角度調整は行いやすい機種になります。
ユニコーンアンテナの詳細については、以下のコラム記事でも解説しております。
地デジアンテナの最先端、ユニコーンアンテナとは? 特徴、メリット、工事費用の相場まで徹底解説!
【ご自宅で受信できる地デジ電波の方向を確認し、アンテナ角度を調整する方法は?】
地デジアンテナでも、主にデザインアンテナをベランダの内外に設置する。また屋上テラス空間のある住宅など、安全にアンテナ設置作業を行える現場であれば、アンテナ工事業者などに依頼せず、ご自宅でアンテナを取り付けることも可能です。
ただ的確な地デジアンテナ設置には、現場で受信できる地デジ電波レベル(電界地域)を確認し、適した受信性能の地デジアンテナ機種を選ぶ。電波が届く方向にあたり、周辺の障害物などに影響されにくい設置位置を選ぶ、という前提条件が必須です。
そして適切な角度調整を行って地デジアンテナを設置するためには、まず設置する現場に届く電波の方向を確認する必要がございます。
基本的には、現場に地デジ電波が届く方向は、現場のもっとも近くに位置する電波塔の方向と言えます。ただ、現場から電波塔の方向に障害物が存在する場合は、地デジ電波が障害物に反射して方向の変わった、別方向からの「反射波」を受信しているケースもございますので、ご注意ください。
アンテナ工事の専門業者であれば、専用のアンテナレベルチェッカーという機器を使用することで、アンテナ工事現場の各場所にて受信できる地デジ電波レベルやその方向を確認できます。ただこのような機器はやや高価であり、使いこなすには専門知識も必要となるため、一般の方にはあまりおすすめできる方法ではございません。
地デジアンテナの方向を確認する、一般の方でも比較的わかりやすい方法としては、以下のものが挙げられます。
・周辺の地デジアンテナ(八木式アンテナ、ユニコーンアンテナ)の方向を確認する。
ご自宅の近隣住宅に設置された地デジアンテナは、当然、電波の方向を向けられているため、それらの方向を参考にすれば、ご自宅に届く電波の方向も割り出せます。ちなみに八木式アンテナの場合は、矢印の先のような「反射器(リフレクター)」とは反対側の先端が、受信性能の高い正面になります。デザインアンテナは平面側の正面が向けられる方向です。
・インターネットのサイトやスマートフォンのアプリなどを利用する。
インターネット上にある、一般社団法人「放送サービス高度化推進協会(A=PAB)」公式サイト内の「地デジ放送エリアの目安」ページでは、全国各地にある地デジ電波塔の位置と、各電波塔の中電界地域以上にあたるエリアを、地図上で確認できます。
またスマートフォンアプリには「テレビアンテナ」など、やはり現場から見た近隣の電波塔の方向を、コンパスで示してくれるアプリもございます。これらを利用することで、近隣の電波塔の方向を確認しやすくなります。
・地デジアンテナと接続したテレビの「アンテナレベル」やインジケーター機器で受信している電波レベルを確認する。
これは障害物などの影響で、電波塔の方向と実際に現場へと届く地デジ電波の方向が異なる場合に、特に有効な方法です。
地デジアンテナとテレビなど受信機器をケーブルによって接続した後、テレビなど機器側の設定画面から「アンテナレベル」画面を表示します。するとテレビ画面側に、数値やメーターなどで、アンテナから届いている電波レベル(アンテナレベル)が表示されます。
この画面を確認しながらアンテナ角度を調整して、アンテナレベルがもっとも高くなる角度を見出して、的確な角度を決定します。
ただ注意点としては、テレビなど機器によってアンテナレベル画面の表示方法や、数値の基準が異なるため、機器に付属するマニュアル、メーカーの公式サイトなどで、正しい設定方法や読み取り方を確認する必要がございます。
もうひとつ、地デジアンテナの角度を調整してから、テレビ側のアンテナレベルに反映されるまで数秒のタイムラグが発生するため、正確な角度調整を行うには、やや時間と手間がかかる。テレビの設置位置によっては、アンテナ調整役とテレビ側のアンテナレベル確認役、二人以上の作業者が必要になるといった点です。
また地デジアンテナからのアンテナケーブルに接続することで、送られる地デジ電波レベルを確認できる、簡易的なインジケーター(レベルチェッカー)機器も存在します。このような機器は1,000円台程度と比較的、低価格で、テレビ側のアンテナレベルよりも手早く受信レベルを確認できるため、購入されるのもひとつの方法です。
なおアンテナレベルに関しては、以下のコラム記事にて詳しくご説明しております。
地デジ、衛星放送受信のアンテナレベルとは? テレビからの確認方法や低下の原因を解説
(地デジアンテナ設置時の角度調整について)
地デジアンテナを設置する際の角度調整は、前述したハイトパターンの影響により、設置する高さでやや受信感度が上下することもございますが、基本的には電波塔(電波の届く方向)に向けるという、方位角(左右角)の調整のみになります。
使用する地デジアンテナモデルによっても半値幅は異なりますが、素子数の多いパラスタックアンテナなどを除けば、そこまで厳密な角度調整は必要ございません。アンテナの正面側を地デジ電波の届く方向へと向けることで、十分な受信レベルにいたることが多くなります。
特にご自宅で地デジアンテナを設置する場合には、比較的、半値幅が広く、設置しやすいデザインアンテナがおすすめといえます。
その他、地デジアンテナの設置については、以下の各コラム記事が参考となるでしょう。
テレビアンテナ設置場所のポイント(地デジ・BS/CSアンテナ編)
徹底解説!強・中・弱の地デジ電界地域に適したテレビアンテナ工事の選び方、調べ方とは?
【まとめ】
地デジアンテナの角度調整については、通常モデルであれば指向性にやや余裕があることが多く、ミリ単位などの厳密さは必要ないため、比較的、行いやすい作業となります。
なお衛星放送用BS/CSアンテナの「指向性」については、当コラムの姉妹記事となる、以下のコラムでご説明しております。
BS/CSアンテナの角度調整に重要な「指向性」とは? 人工衛星の方向を確認できるスマホアプリ「BSコンパス」も徹底解説!
ただ正確な現場の電波調査に基づいた、適切な地デジアンテナの設置や、屋内のすべての部屋に地デジ電波を送るような複雑な配線工事については、専門のアンテナ工事業者でなければ難しい作業となります。
ご自宅での地デジアンテナ取り付けで可能となる域を越える、さまざまなテレビアンテナ工事についてのご相談は、現地調査、お見積もりを完全無料で実施し、可能な限りお客様のご要望に沿うアンテナ工事をご提案。国産一流メーカーの高性能アンテナ本体価格を含む、高品質のアンテナ工事を業界最安価格でご提供。さらに工事完了後からの「10年保証」もご用意し、施工後も長いご安心をお約束する、当あさひアンテナのフリーダイヤル(0120-540-527)。またはメールフォーム、LINEアカウントまでご一報いただければ幸いです。